社会インフラの心臓部:メインフレーム(汎用機)の世界
1 はじめに
一言でいうと
「企業の基幹業務データ(金融、顧客情報など)を一手に引き受け、圧倒的な信頼性と処理能力でさばき続ける、巨大な集中処理コンピュータ」 です。
主に企業など巨大な組織の基幹業務用などに使用される、大型コンピュータを指す用語です。
- 現在はIBMを始めとした一部限られた企業しか製造していません。
- メインフレーム自体は、メインフレーム専用のOSで動作します。
- 他の一般コンピュータと違う特徴のひとつとして、高いI/O性能を持つことが挙げられます。
なぜ今、重要なのか
「過去の遺産(レガシー)」と思われがちですが、銀行の勘定系システム、航空座席予約、保険会社の契約管理など、「絶対に止まってはいけない」「大量のデータを整合性を保って処理する」 社会インフラの根幹は、今でもメインフレームで稼働しています。 近年では、Linuxを搭載してクラウドの一部として機能するなど、最新技術とのハイブリッド化も進んでおり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈でも「既存資産をどう活かすか(あるいは移行するか)」という議論の中心にあります。
2 ビギナー向け・ドキュメント
概要:巨大なコンテナ船
メインフレームは、PCやスマホ(クルーザーやボート)とは設計思想が異なります。 何万トンもの荷物(データ)を積み、嵐(障害)が来ても沈まず、エンジンを止めずにメンテナンスしながら、目的地(バッチ処理完了)まで正確に進み続ける「巨大なコンテナ船」です。小回りは利きませんが、大量輸送と安定性は最強です。
公式情報・主要ベンダー
現在、メインフレームを製造・販売しているメーカーは限られています。
- IBM (IBM Zシリーズ): https://www.ibm.com/jp-ja/products/z16
- 世界シェアの大部分を占める事実上の標準。
- 富士通 (GS21): https://www.fujitsu.com/jp/products/computing/servers/mainframe/gs21/
- 日立製作所 (APシリーズ): https://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/soft1/vos3/index.html
導入:COBOLとJCLの世界
メインフレーム開発の代名詞といえばプログラミング言語「COBOL」と、実行指示書である「JCL (Job Control Language)」です。
COBOLでのHello World (Hello.cbl) 英語の文章のように読めるのが特徴です。
IDENTIFICATION DIVISION.
PROGRAM-ID. HELLO-WORLD.
ENVIRONMENT DIVISION.
DATA DIVISION.
PROCEDURE DIVISION.
DISPLAY 'HELLO, MAINFRAME WORLD!'.
STOP RUN.
JCLでの実行指示 (RunHello.jcl) 「どのコンピュータで、どのプログラムを、どのリソースを使って動かすか」を指定します。
//MYJOB JOB (ACCT),'USER',CLASS=A,MSGCLASS=X
//STEP1 EXEC PGM=HELLO
//STEPLIB DD DSN=MY.LIBRARY.LOAD,DISP=SHR
//SYSOUT DD SYSOUT=*
3 会話集
エンタープライズ開発の現場、特に銀行や生損保のプロジェクトでよく聞かれる会話です。
Q1. なぜWindowsやクラウドに載せ替えないんですか?
新人: 「維持費も高いし、AWSとかに移行(マイグレーション)すればいいのに。」 ベテラン: 「それが簡単じゃないんだよ。30年継ぎ足したスパゲッティコードの解析が困難だし、『小数点以下の計算誤差』や『処理順序の厳密性』において、オープン系技術ではメインフレームと同じ結果を保証するのが極めて難しいんだ。」
Q2. 「バッチが突き抜ける」ってどういう意味?
運用担当: 「今日の夜間バッチ、データ量が多くて突き抜けそうです!」 PM: 「まずいな。オンライン稼働開始の朝8時までに終わらないと、銀行のATMが開かないぞ。ジョブの多重度を上げてなんとかならないか?」
Q3. 「黒画面(3270端末)」って何ですか?
Aさん: 「映画に出てくるハッカーみたいな緑と黒の画面で仕事するんですか?」 Bさん: 「そうです(エミュレータを使いますが)。マウスは使えません。画面遷移や確定など、すべての操作をキーボードショートカットで行うので、熟練者はマウスを使うより数倍速く操作できるんですよ。」
4 より深く理解する為に
アーキテクチャの強み:RAS
メインフレームを支える設計思想はRAS(またはRASIS)に集約されます。
- Reliability (信頼性): 部品レベルで二重化されており、故障しにくい。
- Availability (可用性): 稼働中にCPUやメモリを交換でき、システムを止めない。
- Serviceability (保守性): エラー発生時に自動でメーカーに通報し、原因を特定しやすい。
集中処理 vs 分散処理
- オープン系(分散処理): 多数の安価なサーバーを並列させて処理能力を稼ぐ。GoogleやWebサービス向き。
- メインフレーム(集中処理): 1台の超強力なマシンに資源を集中させ、メモリとI/O(入出力)を超高速化する。1つの巨大なDBを整合性を保って更新する銀行口座処理などに向き。
レガシーマイグレーションの種類
- リホスト: ハードウェアだけオープン系に変え、プログラム(COBOL)はそのまま動かす(エミュレーション)。
- リライト: COBOLをJavaなどに書き換える。
- リビルド: ゼロから要件定義して作り直す。最もリスクが高いが、成功すればDXにつながる。
5 関連ワード
- COBOL (コボル)
- 事務処理用に開発されたプログラミング言語。金額計算に強く、読みやすいが記述が長い。世界中の金融コードの多くは今もCOBOL。
- 2025年の崖
- 経産省のレポート用語。老朽化したレガシーシステム(メインフレーム等)を刷新できないと、保守運用コストの高騰や人材不足で経済損失が生じるという警告。
- CICS (シックス)
- IBMのトランザクション管理システム。オンライン処理(ATMの入出金など即時性が求められる処理)を制御するミドルウェア。
- EBCDIC (エビシディック)
- メインフレーム特有の文字コードセット。ASCIIコードとは並び順が違うため、オープン系とのデータ連携時に文字化けトラブルの元になる。
- オープン化
- メインフレーム(汎用機)から、UNIX/Windows/Linuxサーバー(オープン系)へシステムを移行すること。ダウンサイジングとも呼ばれる。
6 要点チェック
- 信頼性最強: 「絶対にデータを壊さない」「止まらない」ことが至上命題のシステムで使われる。
- I/O性能: 単純な計算速度よりも、膨大なデータをディスクから読み書きする能力(I/Oスループット)が圧倒的に高い。
- 資産の継承: 何十年分のビジネスロジックがCOBOLコードとして蓄積されており、これをどう次世代につなぐかが経営課題となっている。
- 進化中: 単なる「古い機械」ではなく、最新機種はAI処理や量子暗号に対応し、クラウド基盤としても進化している。